Date: Fri, 27 Dec 96 18:59:33 JST
From: Office of UVSOR Users News 
Subject: [UUN:24] UUN 2(3) 1996.12.27 第 
 28 回  UVSOR 運営委員会の報告他   (2/2)
To: UUNML@wbase.fuee.fukui-u.ac.jp (UVSOR Users (News) ML)
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4. UVSOR将来計画(中間報告その2)抜粋 (分子研リポート'96より)

  分子研の点検評価・将来計画関係の今年度の報告書「分子研リポート'96」の
 原稿が入手できましたので、ここに UVSOR 将来計画関係の部分の抜粋を掲載し
 ます。なお、「分子研リポート'96」にはこれ以外に来年度から分子研でスター
 トする「分子制御レーザー開発研究センター」と絡む形で UVSOR に関してどの
 ような議論が行われてきたかをまとめてある部分もあるそうです。御興味のある
 方はどうぞ。

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UVSOR将来計画(中間報告その2)抜粋   分子研リポート'96より 

 施設完成後、10年を経た平成6年度に極端紫外光実験施設(UVSOR)の将来計画に
ついて検討を開始し、今年で3年目になった。昨年度、将来計画について中間報告を
提出したが、計画を具体化するためには、来年度以降も他の放射光施設計画の状況を
的確に把握していく必要がある。よって、今年度も昨年度に引続いて中間報告の形で
まとめることにした。
 以下では、Iに昨年度の提出した中間報告の概要を示し、IIに今年度に開催された
委員会等の概要を述べる。また、IIIに第2回UVSOR将来構想委員会の報告書を添付
する。なお、将来構想委員会等の委員会は来年度も開催する予定である。


I 平成7年度の段階でのUVSOR将来計画(中間報告)の概要

 以下の通り、4計画を段階的に実現していく。

(1)光源、分光器、測定装置のスクラップアンドビルドによる
   世界的研究成果の達成

 これは国内外研究者によるUVSORの点検評価で強く指摘されているものであり、
現在、総力を挙げて実行している。この計画は文部省学術審議会加速器科学部会の
平成7年度答申にも合致し、COE施設としての先端的な研究志向を強化するもので
ある。また、性能向上のための技術開発は(4)の新光源建設計画を実現するため
のR&Dとなっている。

(2)レーザーを併用した実験技術の開発と新しい放射光分子科学の展開

 これは「分子制御レーザー開発研究センター」の4つの研究の柱のひとつ
「放射光同期レーザー開発研究」に直結するものである。現在、UVSORでは既存
のレーザーを利用した試行的な研究と円偏光アンジュレーターを利用した新しい
タイプの自由電子レーザー(FEL)の開発研究が始まっているが、本格的にこの
ような研究を展開するには、前者については分子制御レーザー開発研究センター
の早期実現によるレーザーの開発が必須であり、後者については(4)の新光源
建設を実現することが望まれる。

(3)第3世代高輝度VUV・軟X線光源(分子研外)を利用した
   先端的分子科学研究の遂行

 この計画は、所外の情勢に大きく左右されるが、学術審議会の答申にもある
ように、諸外国の放射光分子科学の進歩に遅れないように日本でも早急に第3
世代高輝度VUV・軟X線放射光の利用を推進する必要がある。文部省下で高輝度
VUV・軟X線光源が実現した際には、分子研の独自性を失わないようにその光源
のある敷地内に分子科学研究所の分室と専任スタッフ(助教授1、助手1、
技官1)を新規に設置・配置し、分子研独自のビームラインを建設して分子
科学の研究を推進する体制を構築する。

(4)UVSOR次期計画としての次世代光源の建設と新研究分野の開拓

 放射光分子科学の新たな展開には第3世代高輝度光源だけでは不十分である。
UVSORで現在、成果の挙がっている自由電子レーザーやコヒーレント放射光に向
けての基礎研究は第3世代の次に来る第4世代とも言える次世代の光源につなが
るものであり、第3世代光源では実現不可能な放射光分子科学の新しい展開につ
ながるものである。本計画では5年程度の先のスタートをめざして、現存しない
ような新しい光源の建設を開始し、他施設では出来ないような放射光利用研究を
可能とする。このようなUVSORの長期計画を具体化していく上では光源関係の
教授職が新たに必須である。現在、新光源計画の施設名の仮称をUVSOR-II とし、
所外の専門家の支援を受けて技術的に検討を進め、80m x 100m 程度の敷地に収
まる一次案が完成している。

 放射光の輝度を向上させる方法にはいくつか方法がある。第3世代高輝度光源
リングは電子ビーム自身のエミッタンス(位相空間の広がり)を小さくするもの
であり、そのような設計理念を踏襲する限りリングは必然的に極めて大きくなり
、規模の点でUVSORの次期計画にはそぐわない。一方、UVSOR-II 計画では、適正
規模の範囲で低エミッタンスを実現し(現在のUVSORの約 1/10)、次世代光源の
ひとつの目標である極短バンチ電子ビームの生成を可能とする。極短バンチ電子
ビームは第3世代リングからは得られない。電子ビームのエネルギーは現在のUV
SORで行われている研究の連続性を考慮して1 GeV (現在のUVSORは0.75 GeV)と
するので、放射光の波長領域は国内で進行中の高輝度光源計画とは競合しない。
このリングには約 10 m に達する直線部を2ヵ所、3.6 m の直線部を4ヵ所設け
てあり、紫外域〜真空紫外域のFEL及び長尺アンジュレータの導入が可能になって
いる。バンチ長は理論的に約  4 mm から100μm 以下まで可変であり(現在の
UVSORでは約 15 cm)、他のところで計画されているリングでは不可能なピコ秒
以下の時間分解の実験や数十μm 以上の遠赤外領域での高輝度コヒーレント放射
光による研究が可能となる。さらに、バンチ長が最近のレーザーのパルス幅と
遜色ないほど短いことから、レーザーとの2重共鳴の実験でも高効率な測定が
可能となる。なお、この次世代の光源はB地区の現在のUVSOR施設及びその周辺
の若干の敷地を利用して建設する計画である。


II 今年度開催の将来計画に関わる委員会等の概要

II-1 平成8年度外国人評価(H8.10.24-29)

 極端紫外光科学研究系の評価委員として来所したNenner博士に依頼して、
分子研における極端紫外光科学の将来展望とは切り離すことのできないUVSOR
の将来計画(1)〜(4)のそれぞれについても評価を受けた。その抜粋は
UVSOR ACTIVITY REPORT 1996 に掲載予定。

II-2 第2回UVSOR将来構想委員会(H8.12.10)

(i) UVSORの将来計画の進行状況の報告、(ii) 新規光源建設計画を有している
ところの代表者からそれぞれの計画の概要や問題点の説明、(iii) UVSORの置か
れている状況と将来計画に関して大局的な立場からの検討と討論など。詳細は
IIIに示す報告書を参照のこと。

II-3 第10回将来計画委員会(H8.12.25)

 本年度の分子研の将来計画に関する全体会議の議題としてUVSORの将来計画
が取り上げられた。これまでの経緯の説明と本年度の報告がなされた。現時点
での取り組み方を含めて、それぞれの内容について議論した。平成11年度以
降の概算要求に向けて可能なところから準備を始めることが了承された。


III 第2回UVSOR将来構想委員会報告

日時             平成8年12月10日 午後1時半〜5時10分

出席者   東理大総研            黒田晴雄
         高エ研放射光          木原元央
         東大物性研            神谷幸秀
         広大理                谷口雅樹
         名大工                水谷宇一郎
         分子研顧問            井口洋夫、田中郁三(学位授与機構)
         所内                  所長、小杉、宇理須、岩田
 
配布資料        ・分子研リポート'95
                ・開発研究センターの概算要求関連資料       
                ・将来計画(1)と(2)についての現状
                ・ビームラインの現状
                ・人員構成の現状
                ・共同研究の現状
                ・平成8年度外国人評価レポート

まず配布資料に基づき、平成7年度に中間報告としてまとめた4つの将来計画、
について、現在までの取り組みを含めて小杉が簡単に説明した。また、分子研の
施設改編計画による開発研究センター創設の構想及び分子研における共同研究の
研究形態の変更について所長から説明があった。以下では、所外の状況や将来計
画の各項目についてのフリーディスカッションの内容を記す。


III-1 高エ研、東大、広大、名大で進行している計画について

 高エ研は平成9年度より機構組織に改組される予定である。放射光実験施設
(Photon Factory、PF)のビームライン関係者は物質構造科学研究所に所属する
ことになる。物質構造科学研究所では放射光、中間子、中性子の利用研究が行わ
れる。施設として優れているというPFの設立来の基本条件についてはこの改組に
よっても変わらず、今後も放射光施設のCOEとして広い分野における施設利用で
優れた成果が挙げられるように努力する。ただし、平成7年度に受けた点検評価
の結果に従い、改組後は外部ユーザーの研究支援に加えて施設内スタッフ自身の
研究も推進する方向で検討を始めている。PFリングは今年度末より来年度の途中
まで高輝度化のための改造を行う。また、SPring-8ではできないような実験を
可能にするため、トリスタン主リングへの入射加速器であるARリングを大電流
シングルバンチ及び極短バンチ長のX線施設として改造して利用する方向で考え
ている。放射光以外では、平成10年度に向けて大型ハドロン計画の概算要求が
始まる予定である。

 東大計画は日本で唯一の世界的に競争力のある第3世代高輝度VUV・軟X線
光源として位置づけられているので、全国的な支援の中でできうる限り最高
の技術を投入して建設することが期待されている。物性研の施設としての計画
ではなく、大学の施設としての計画になっており、全学的な支援が得られるよう
に組織を編成中である。建設予定地は柏キャンパス内である。平成9年度から
走り出すことは文部省には認められず、平成10年度実現を目指して新たな努力
をしている。日本で唯一の施設なので、優れた成果を挙げるためにも、これまで
放射光科学で実績のある大学や研究機関に独自の特徴あるビームラインを建設
していただくように依頼しているところである。物性研から研究者が移籍して
建設の中心勢力になるので、どうしても物性研究が中心になる。その他の分野
については学外研究者にかなり負うことになる。

 広大リング(HiSOR)は学内利用目的のために平成7年度予算で建設がスタートし、
平成8年度にはビームライン関係の専任スタッフを擁する放射光科学研究センターが
設立された。理学部色が強い施設である。リングを運転したり改良したりする加速器
関係のスタッフは学内には置かない。リングの性能は企業の技術力に完全に負って
いる。学生に対する教育を非常に重視している。留学生を受け入れ、国際交流に貢献
する体制も作った。全国的に利用を公開するような施設ではないが、自治体、地域
産業界、近隣大学などの共同利用は考える必要がある。学内研究者の個人レベルの
共同研究の他、客員研究員や受託研究員の枠内での共同利用の形態を模索中である。
現在、岡山大学が専用ビームラインを持とうとしている。なお、広大リングで実現不
可能な研究についてはSPring-8やPFなどの学外の全国共同利用施設を積極的に利用
する。

 名大リング(NSSR)計画は概算要求中のものである。建設地は決まっていない。
基礎科学を指向するUVSORと相補的な役割を果たすことを強く意識して、放射光工学
の研究、さらには放射光医療工学の研究を目指した施設となっている。文部省学術
審議会の平成7年度答申に書かれている大学への小型リングの設置目的にはない
硬X線領域の利用を主目的としている。工学部色が強いこともあるが、利用波長も
利用研究内容も広大リングとはかなり異なる。なお、学内利用専用の大学の施設と
分子研のようなCOEの研究所の施設では設置目的が違うので、地理的に近接して
いるからと言ってUVSORとの相補性をことさら強調する必要はないのではないかとの
意見があった。

III-2 将来計画(2)について

 昨年度末から現在に至るUVSOR関係の研究者の努力の結果、レーザーをUVSORからの
放射光に同期させる技術的問題はほぼ解決した。今後は分子科学として意味のある
研究を展開していかねばならない。一方、FELについても直線偏光アンジュレータで
270nmの短波長化に成功し、今年の6月に成果発表をしたが、その後、円偏光アン
ジュレータを使うことで世界記録の240nmを切ることにも成功している。また、
現在、FELの発振が長時間安定しており、実際の分子科学の研究にも利用できるもの
となってきた。

 レーザーを併用した研究テーマはPFでも創設期からあるが、未だに多くの成果を
挙げるまで到っていない。大きなプロジェクトを立てることもしていない。この種の
実験は施設利用的な細切れのビームタイムの配分では成果を挙げることが難しい。
広大リングでも計画だけはあるが、最初のフェーズでは取り上げない。所内に
レーザーの研究者がいることが必須である。分子研においては、レーザーをフルに
利用して研究している研究者が多くいるので、そのような研究者が放射光利用を
考えるところに分子研の特徴があるのではないか。このように将来計画(2)は
分子研にふさわしいものであり、継続的に研究を進めるべきである。

III-3 将来計画(3)について

 東大計画は日本で唯一の世界的に競争力のある第3世代高輝度VUV・軟X線光源
として位置づけられているので、先端的分子科学研究に必須のものになるであろう。
また、東大の学内には放射光を利用して分子の分光や動力学の研究を推進する研究者
集団の母体がないので、分子科学研究所の関与が大いに期待される。ただし、現在の
ところ、東大計画は文部省には認められていないので、分子研としてはまだ、概算
要求にのせることはできない。また、分子研が分室を作る際には必ずそのための
定員を純増で獲得する必要がある。現在の分子研定員の中からやりくりするならば
本末転倒である。分室の定員については、PFに分室を有している東大理学部や
東大物性研の現状と比較して分子研計画では建設期においても学生などの支援が
期待できないことを考慮すると、助教授1、助手1、技官1が妥当なところである。

III-4 将来計画(4)について

 平成7年度に検討したUVSOR-IIの一次案に盛り込んだアイデアはその後、兵庫県
立姫路工大高度産業科学技術研究所のニュースバル計画(兵庫県の産業界の利用を
主目的として設立)で取り込まれることになった。分子研としては、ニュースバル
計画での光源加速器の成否を見ながら、一層すぐれた特性を有するリングを立案
していく必要がある。光源加速器として特徴あるものにすればするほど開発的要素
が増えるが、ビームライン(分光器、測定装置)のデザインは特殊なものに限定
されるわけではない。ビームタイムの7、8割は通常のユーザーモードでの運転
が可能であろうし、ビームラインも特別なものにはならない。ただし、利用の割合
は少なくてもリングの特性を積極的に利用した新しい研究に挑戦することが重要
である。

 UVSORでは以前から光源加速器分野で教授職を置くことを考えてきた。ただし、
純増要求ではなく助教授の教授職への振替案であったので、すでに在任している
助教授の扱いについて妙案がなく、これまで挫折してきた。UVSORの次期計画で
教授職を純増要求するのは妥当である。

 これまでは共同利用に供されている放射光施設が少なかったために、UVSORの
本来の設立理由であった分子科学を指向した共同研究に集中するわけにはいかな
かった。今後は各大学に小型リングが配置されるであろうし、次期計画では原点に
戻って分子科学のCOEとしてふさわしい施設を建設すべきである。現在のUVSORで
達成されているFELの成果は次期計画につながるものとして評価できる。また、
同期レーザーを使った時間分解実験を展開していく場合、放射光技術としては
極短パルス化(極短バンチ化)が必須であり、この点に関してもこれまでのUVSORの
成果が評価できるが、電流がどこまでとれるかという点でまだ実用化までの距離は
あるであろう。ピコ秒を切る極短パルス化が可能になったとしてもジッターが押さ
えられないと時間分解実験には使えないことも忘れてはならない。

 FEL利用実験やレーザー併用実験は所内専用ビームラインで集中的に成果を挙げ
るようにすべきであろう。所内研究者が所外ユーザーに遠慮することはない。分子
研では所内研究者が中心となって利用研究の成果を挙げないとUVSOR-II設置の意味
はない。その点はPFと大きく異なる。今後は従来の装置設備中心の共同利用ではな
く、人物を中心とした共同研究に移行すると思われるので、優れた研究者集団を擁
しているという面からUVSORでも新機軸を出すべきである。そのためには、装置設備
で勝負するという考えから脱却して身軽になった上で、実験方法に特徴を出すような
方向で割り切って考えることも必要であろう。

 次期計画は基本的には現在のUVSORの規模(土地、人員、予算)を大きく変える
ものではなく、所内での位置付けも変わらない。極端紫外光実験施設の設立後に
極端紫外光科学研究系ができたために現在のUVSORの位置づけに曖昧なところが
あるが、次期計画では分子研の他の施設やセンターのように研究系が施設を主導
していく態勢が望まれる。